2010/06/24(日本時間25日) グループE 日本×デンマーク(3-1)試合後
イビチャ・オシム氏のスカパー!での試合後のコメント
(オシムさん、今日の試合の感想をご覧になっての感想を聞かせて下さい)
「ええ、冷静に見ましたよ。こんなに日本代表の試合を落ち着いて見れたのは久しぶりですが、まあ今日の勝利は日本のサッカー界全体にとって非常に素晴らしい勝利だと思います。これで日本のサッカー界全体と申しますの(か)、Jリーグの選手達が気を楽にしてですね、良いプレーが出来るだろうという期待を込めて申し上げました。つまりこの勝利をきっかけに、つまり、グループリーグの突破をきっかけに、日本のサッカーファンはもっと代表を応援することを通じてサッカーそのものに親しみを覚えているだろうと思うんです。
誰か特別なスターがいなければ見に行かないと言うのではなくて、コレクティブ(集団的・集合的)なプレーをインテリジェント(知性を持って)にやればこういう結果が出るんだということを日本のファンは知ったと思います。
もちろんね、言いたいことはありますよ。これは2-0とリードしている場面で、後半でですね、経験の有る選手が率先してラインを下げてペナルティエリアの中で守るんだと、そういうような指示を出してような風に見受けられたんですけども、そういうことは許してはいけないと思いますね、繰り返してはいけないと思います。
テレビを見ていた印象ですから何とも正確なのかどうか判りませんけれども私が見る限りはそう見えたと、ゴールで近いところ、ゴールに近いところで守ろうとした、しかしそれは実際は非常に危険なことなんです。
それから決めるべきところで日本がゴールをもっと決められなかったということですね。また審判に助けられた部分もあります。PKになってもおかしくないところが2つ以上あったんじゃないでしょうか? もしそこで1点返されていたらこんなに簡単に勝てた試合が本当は判らなくなっていた可能性はあります。セーフティーリードで進んでいた試合をサプライズで終わらせることが無いような、そういう試合運び…もっと落ち着いた試合運びをしたいものですね。それが出来る選手、中澤、闘莉王、その他の選手(実際にはオシムは阿部、遠藤をあげている)が揃っています。
選手達に言いたいのは今日の試合をもう一度ビデオで見直して欲しいということです。そして3点目のような複数の選手で組織的に取ったゴール、これを取るチャンスが、もう2点・3点取るチャンスがあったということです。個人では無くて集団でやれば取れた筈のゴール、コレクティブ…2回・3回ではなくて4回・5回あったかも知れません。コレクティブであったら点が入っていた場面、残念ながら一部の選手がワンマンなプレーをしようとしてチャンスを逸してしまったようでありました。
日本代表はコレクティブなプレーをするためのトレーニングを積んできています。そして俊敏性を活かして比較的テクニックがある、そういう選手の素質を活かすプレーが出来るわけですから、それを活かすようなアイデアを持つべきです。一人でやろうとしたら失敗します。そしてそのコンビネーションプレーのアイデアのある選手、遠藤にしろ、阿部にしろ、駒野にしろ、そういう選手がいる訳ですから、そういう、それにベンチには中村俊輔、中村憲剛もいる、そして相手があっと驚くようなアイデアをいつでも出せる、そういう準備が出来ている訳ですね。ですから今日はもう少しゴールを決めるチャンスを確実に決めて欲しかったです。
しかしまあ勝った、良しとしましょう。それで今日の最大の収穫は自信をいっそう深めたことじゃないですか? ただ忠告したいのはあまりお祝いをし過ぎるなということです。まだお祝いするには早すぎます。お祝いをするのは大会が終わってからでも十分時間があります。このような良い試合を決勝トーナメントでまた同じようにプレーが出来るかどうか。今回のワールドカップでは絶対に勝てない相手というのはいないんだということはもう判ってると思います。ですからどんな相手でも負けない、あるいは勝てるというそういう気持ちを持って次のラウンドに進むことが出来るようになったと思います。
このようなゲームを誰が相手で有ろうが繰り返していけばいいんです。次はパラグアイですか? 勝てばブラジルが来るんでしょうか、ポルトガルが来るんでしょうか、誰が来ても今日のようなプレーをすれば間違いはありません。
まあこれくらいにしておきましょう。改めて選手達と日本の皆さんにおめでとうと申し上げます。選手達・代表のスタッフの人達はこれでもっと気が楽に仕事を続けられると思います。その彼らを日本のサポーターの皆さんは支えて下さい。それからJリーグの監督さん達も日本でサッカーという仕事をもっと楽に進めることができ(るようになっ)たと思います。ワールドカップが終わった後もJリーグで良いサッカーを見せられるように日本のサッカー界が発展していくだろうと期待しております。
まずサッカーの人気をもっと盛り上げること、それから若い選手がどんどん登場して来るような、登場してきて成熟していくような、そういう、それを見守る雰囲気を作っていきたいものです。日本の選手は出来るんだということを選手自身も、皆さんも、分かったと思います。勝つということが素晴らしいことは分かるけれども、もっと磨く部分もあるということも分かったと思います。今日の試合が理想的であったかと言えば、ノーです。もっと磨いて、もっと改善できる部分はたくさんあります。そして一歩進歩すれば、二歩三歩と続いて進歩する可能性が出来たということです。
まあ、私はこの、今日の試合のコメンテーター、スカパーのコメンテーターになれた事を非常に栄誉だと思います。まあこれまでの何試合かで耳に痛いようなことも言い過ぎたかもしれませんが、それは今、改めてお詫び申し上げます(笑)。まあ、いまだから皆さん怒ってらっしゃないとも思いますけれども、しかし耳が痛いことも時々は聞かないと進歩もないものです。聞きたくないことも時々は我慢して聞くような習慣を付けましょう。ほめられているだけ、おめでとうと言われているだけでは進歩しないこともあるものですから。今ちょっと最後に小言のようなことを言ってしまいましたけれども、それは選手達の期待をしているからに他なりません。気を悪くなさらないでください。
今皆さん日本人の(は)良かったと思ってらっしゃることでしょう。私はまだ日本人にはなれていないんですけれども。次の試合では日本製のネクタイを締めてきたいと思います。そして皆さんの仲間としてもう一回お祝いをしたいものだと思います。このくらいにしときましょう。皆さんおつかれさまでした。またお目にかかりましょう。次の試合もっと良い試合を期待しています」