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furuseさんもおっしゃるように、問題は電子カルテじゃないです。電子カルテはむしろカルテ改ざんの防止策として有用で、これら電子カルテについてのガイドラインを厚生労働省は作成中と聞いています。ただ閉じた回路上でも、院内の人間が漏らしてしまうと問題で、実際には誰が見たかもログされることが多いんですが、経営者にされてしまうと問題になりますね。これは紙カルテでも同じ問題ですが(医療知識の問題が残ります:電子カルテは「医療の標準語」とも平行して検討されています。)
ただその後の下りが少々大手メディアに毒されていらっしゃる、というのが正直な気持ちです。院内感染の耐性菌の問題は、実際には臨床上では重要な問題とは言いにくい現状があります。というのは耐性菌というのは「強毒菌」ですが、耐性でない同種の菌が併存した場合、感染するのは「耐性でない菌」となります。基本的に「耐性菌」は自分の身体の仕組みを変えるために、実は生存の為のシステムの一部を失うために、通常存在する菌より生存力は弱いのです。ですから基本的に「耐性菌」が問題となるのは、患者さんの免疫能が落ちた場合、つまり院内での感染であり、問題の本質は抗生剤にない、というのが実際のところです。むしろ問題はUKのように隣のベッドまで180cm以上離れていないといけないとか、隔離条件とか、そういう基本的な院内感染対策がされていなかったことが問題です。それに日本の臨床では実際にトピックになっているのはPRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)のみで、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)・VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)については実はもう対策は固まっていると言って良い状況です。また最近はこうした「化学療法」にもガイドラインが出来、訴訟対策上の問題もあって、受け入れる医師が増えていることも確かです。薬剤のみを見れば、それほど問題はないと言って良いでしょう。
実際、「風邪」の場合抗生剤処方の理由は「2次感染予防」です。これは実はアメリカでも変わっていなくて、出される薬が「ペニシリン系」になるという違い位です。これは耐性菌予防の為、と伝えるメディアも多いのですが、実際には医療保険が低所得者などを除き民間で、それら保険者が安価な薬剤で済む場合、そちらを選択しなければ、費用の支払いをしない(被保険者10割負担になる)ことがあることがより大きいです。アメリカでは処方薬の広告が認められているのも、その点を医師、保険者に確認してくださいという、患者(被保険者)からの宣伝という側面もあるのです。
またUSでは風邪薬も安く、$6位で1人分の大衆薬(処方不要の薬のこと:OTC-それも結構強力な奴)が買え、症状の確認のため薬剤師がいる、という状況です。薬剤によっては1:40位の価格差がある商品もあります(通常は1:2位です)。そして「何日服用して効果がなければ、医師の診察を受けて下さい」と書いてあります。そういうスキームです。日本は大衆薬の価格が高く、下手をすると診察を受けた方が安い位です。そのような問題もあります。(USで風邪で外来受診すると$150位かかります。日本式に3割負担でも$45ということです。)もちろん通常より免疫能の低い、小児以下、高齢者の場合は受診するのが適切だと私も思います。
じゃあ、何故日本で耐性菌がニュースになるのかといえば、わかりやすいことと、視聴者の関心を得やすいことの2つの側面しかありません。風邪に抗生剤の問題よりも、先に挙げたこれらの方が問題です。さらに薬価差の問題で高薬価の薬剤を投与するということもあります。これは逆に処置の点数が安すぎる、という問題があり、これを無視しているのがほとんどのマスコミです。実際大規模な病院になれば、全体で黒字でも、外来は「赤字」、病棟は「黒字」ということが多いようです。風邪で病院を受診する人は、受益者負担を十分していない、ということでもあります。(だから最近は紹介状無しでの「高度医療施設」受診で費用を取るようになりましたが、これでも十分ではないようです)
医師が高所得、と言われますが、最近は必ずしもそうではありません。ただ、一部高所得者に対し、いつまで優遇税制を続けて、ベンツを必要経費で買わせるのだろうかとか、そういうことの方が問題だと思います。そしてなぜこれらの問題を包括的にバーターの形で医療全体を見た改革をしない(できない)のか、という不満が私にはあります。
問題はそれほど、単純ではないのです。
でもそれを単純にして、わかりにくくしているメディアにこそ責任があると思います。
#むしろ農薬耐性の害虫の問題が深刻です。
#10:30 言葉の誤用の為訂正
“医療:耐性菌と抗生剤” に1件のフィードバックがあります
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興味深く読ませていただきました。
知らない事はおそろしいですね・・!