以前、今季の阪神タイガースのチケットの販売方法が「今後に禍根を残す」という書き方をしましたが、それについて少々。これはひとえに日本人の需要過剰感がもたらす、さらなる需給の不均衡とでも言えばいいでしょうか。

例えば93~95年のJリーグがそうでした。実は93年の第1ステージはそれほど過熱感もなかったのですが、第2ステージの開幕戦以降のブームが次のようなことを招きました。

1)供給(チケット枚数)が少ないので、あっという間に需給不均衡が生じた。
1試合の収容数が当時、ほとんどの会場で10,000程度しかなかった。

2)枚数が少ないことで、どのカードでもあれば購入するようになった。
大阪では横浜F戦は確実に不人気カードでしたが、94年には解消しました。最近のMLBの球場の定員が、5~6万から4万強下がっている理由の1つに、土日のチケット確保が難しくなるので、収容数低下で結果的に平日に観客がシフトする、ということがあります。

3)チケット販売方法が、少ない観衆を想定した販売方法であった。
できるだけ多くの場所、提携会社などでも扱ったため、結果的にぴあ、セゾン(当時)などで売り切れになると、知った人はそのような窓口へ購入口を変えて、結果的に需要の過剰感に繋がる。

ただ、これが急速に冷めていきました。

・各会場が20,000以上を想定した客席数に増築などを行った。
・枚数が増えたことにより、需給バランスが急速に崩れた。
・窓口が多いことが、結果的に購入に知識が必要になり、「売れない販売場所」のチケットが空席に繋がり、それが余計に需要を減退させた。
・結果的に売れるチケットも単価が安い方向にシフトした。

渇望感がなくなるとこういうもので、それが97年以降「Jリーグは終わった」と言われる一因にもなりました。

さて、これをタイガースに戻しましょう。
それは販売方法がファン本位かということも考えれば良いでしょう。

a.一般販売の供給枚数が、年間指定の異常な拡大により、著しく減少した。
b.一般販売の枚数が減ったことで、シーズン分一括発売開始と合わせ、本来希望でない日時を購入する人が増え、平日でも埋まるようになった。
c.一般発売の窓口数が多く、ぴあ等のオンラインセンターに一般の購入者は集中するが、旅行代理店などの扱い場所も多く、その為購入方法が結構複雑多岐。

アメリカでもシーズン一斉発売は珍しくありませんが、ごくごく一部のカードを除き、初日に完売することはないという日本との違いもありますので、やはり観客の勝手を考えない一斉発売は危険なような気がします。それにアメリカの場合は販売方法は球場・チームショップ・オンラインセンター1箇所(チケットマスター等)の3つしかなく、販売方法もクリアで公平です。

さて、これが崩れる時はどうやって崩れるか、ということを考えて見れば、簡単です。年間指定席のキャンセルが増えてきた時に、いとも簡単に需給バランスが崩れるのです。今季は推定で20,000~25,000が年間指定で販売され、以前の15,000弱と比較すれば、一般販売枚数は団体等を除き、ほぼ半分になったと考えるのが普通でしょう。要するに今年は一般にとっては供給が半分になったと同じということです。そうなるとどの試合でもあれば買うし、チームの状況が分からないまま入場券を購入することにも繋がり、それが350万動員に繋がった側面があります。

まず、入手しにくいというイメージが広がると、観戦自体を諦めるケースが出てきます。これが今年6月の状況になります。次にそれが知れてくると、需要の「渇望感」が次第に減っていきます。更には今年は勢いで年間指定を購入した個人・企業が多いと思いますが、使用率が減っていくと手放すケースが珍しくありません(95年頃の状況です)。そしてその結果、年間指定席所有者自体、ライト外野指定にシフトしていきます。そうなると、一般売り枚数が増えていきます。更に需要が減退しますので、これが循環することによって2~3年位かけて「市場」が冷え込んで行きます。

だから久万さんは「来年優勝しないと困る」と言うのです。年間指定席の特典「日本シリーズ入場券の座席数×試合数」の購入権利の特典がそれでも繋ぎ止める要因になるからです。結局のところ、甲子園球場が人で埋まっているのは、野球が好きだからではなく、勝ち負けのファンが多いということが大きな側面になってしまうのです。

要するに今年は異常だった、という認識をし、どのように公平な販売をするかと言うことが、チームにとっては必要なのだと思います。営業活動も一時の「売り手市場」に乗っからないことが大事なのですが、タイガースがそれを行っていたのかどうか、それは非常に疑問のように思います。

投稿者 wolfy