ということで、明日まで学会参加している小生ですが、報告書の予行演習ということで、思ったことを書いてみます。
気管支喘息という疾患と、前の会社を含め13年ほどのつきあいになりますが、未だに問題の本質は変わっていません。というのは、吸入ステロイドを使えば確実に良くなるのに、使われていない、ということです。今回の学会では、気管支組織のリモデリング(気管支喘息の罹患期間長期化により、気管支の壁の厚みが増して、狭まる現象)も吸入ステロイドを今まで使われていた量より多めに吸い続けると、喘息になった期間が15年以上であれば、2~3年かかるとは言え、数年であれば3ヶ月程度で改善する等という報告があったりして、吸入ステロイドと、最近でた長時間作用型気管支拡張吸入剤の併用が良い、と勧めています。
しかし、セッションを聞いていると、微妙なズレを感じるのです。というのは、臨床医の多くは、吸入ステロイドをできれば使いたくないのではないか、と思わせる内容でもあります。
これには微妙な問題も含んでいます。
1つは、一般的に総合病院では外来は糖尿での透析を除けば、ほとんどの疾患で赤字になります。一方の入院で収益をあげている構造です。しかも、2002年4月の診療報酬改定で、発売1年を経過した品目は通常一部の薬剤を除いて長期処方が可能となるのです。それでも今まで1ヶ月分以上の薬剤を一度の処方できなかったものが、その縛りに明確な規定がなくなり、極論をすれば、3ヶ月分でも出せることになりました。つまり、これがどういうことになるかと言えば、吸入ステロイドを積極的に使えば、入院が外来になり、しかも長期投薬で、診療報酬も稼ぎにくくなり、経営上問題になるケースが実際あるようです。
もう1つは,喘息の吸入指導は本気ですれば、40分~1時間程度かかるのですが、実際には(これも診療報酬不足から来るのですが)スタッフ不足などで、そこまで出来ていないため、吸入方法自体が上手にできていなかったり、うがいの励行などを説明仕切れず、その結果吸入時に違和感などを感じて吸入を否定したり、あるいは自己管理についても指導すべきなのですが、それも時間的に出来ないため、吸入ステロイドがどれだけ重要かということを、患者さんに理解してもらえなかったり、ということから、進捗していない状況も見て取れるのです。
その他にも、患者側のステロイドに関する誤解、小児に対する成長抑制を未だに指摘する声もあります。運動できないことによる成長抑制は考えないようで。(アメリカのガイドラインは成人・小児の区切りを15歳から5歳にまで下げたのに…。)
だから、吸入ステロイドを使わず、その結果、高齢の喘息患者の死亡が年間3,500人(60歳以下は400人程度、15歳以下は数人)も起こっている現状があります。
ですが、現実には、今疾患の程度で言われているより、少し多めのステロイドを吸入すれば、喘息の本質的な問題も改善されるという流れ。そして、一般医が、長時間作用型気管支拡張吸入剤(LABA)の使用で、吸入ステロイドを減量できると考えているのとは別に、先進的な先生は、ステロイドを減量せず、LABAをそれに「上乗せ」すべきという意図のある発表を行う…そのギャップ。
それは以上に書いた、理想と現実の狭間なのでしょう。
日本の皆保険性・点数制が、結果的に治療費を高くしているように思われるのです。日本の吸入ステロイドの普及率は、ここ95年以降倍程度になったとは言え、2002年ですら喘息患者の12%に過ぎません。(旧西欧諸国では30%程度)それでも年間1,000人程度の喘息死の患者さんは減ったのです。それが何を示すのか。
医療制度も制度的疲労が出ていて、根本的な解決が必要なのに先送りされている現状を、なんとかしないといけない。それが気管支喘息に典型的に出ていることを、改めて学会会場で感じるこの数日です。
「喘息治療の「理想と現実」」に3件のコメントがあります
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ずっと具合が悪かったので、
大変興味深く読ませて頂きました。
吸入ステロイドと投薬ですぐに良くなり、
何故さっさと病院へ行かなかったのかと
悔やまれるばかりです。
友達にも喘息を持っている人がいるのですが、
この吸入ステロイドは使っていないと
言っていました。
ひどいようなら医者に言って出してもらうよう
勧めましたが、こういう理由があるのかも
しれないな、とびっくりしました。
>may0505さん
そうですね。なかなか難しい問題が多いのです。
販促を行う立場としても、吸入の説明をするのがやはり大変で、実際に嫁の妹が小児喘息だったのですが、吸入の仕方が明らかに間違っていて、指導したことがあります。エアゾールだと吸入後「息をこらえる」(できれば最低5秒程度)ことが必要だったのですが、すったりはいたり、シンナーみたいな吸い方で(^^;
今はメーカーさんのサイトで、喘息の資材をオンラインでも出せますので、それをみながら吸入してみるってのもいいかもしれませんね。
あと、簡単な治っちゃいけないので、使わないという診療所もありました。理由は…公害認定患者さんの多い施設、ということだけ書かせていただきます。
wolfyさん
なるほど、医療にも色々な事情がありますね。
最近発作が出ていないので吸入も使用していませんが、
サイトを探してやり方をしっかり勉強して見ます。